ご挨拶

多文化間精神医学会のホームページをお訪ねいただき、ありがとうございます。

高度情報化社会となった現代は地球に暮らす人びとのたがいの距離が近づき、科学技術の進歩に伴って国境を越えての往来が容易となりました。日本においても年間海外渡航者の数は増加しており、またインバウンドと称される訪日外国人旅行者は年々増加しています。今年大きな話題となったラグビー・ワールドカップでも外国人旅行者が多かったと発表されております。2020年には東京オリンピックが開催されることから、さらなるインバウンドの増加が見込まれています。観光地に限らず、日本各地で外国人の姿を見るのは日常の光景となりました。インバウンドだけでなく、技能実習生、留学生、外国企業の駐在員など、中長期在留者や移住者といった在留外国人も年々増加しており、多文化共生社会が到来しているといえるでしょう。

この学会は1993年7月に設立され、第1回ワークショップがその年の12月4日に神戸大学瀧川記念講堂で開催され、活動を始めました。設立当時の若い学会リーダーたちの多くは留学体験をもち、その異文化体験をもとに、異文化の環境で苦悩している人たちを支援するために新しい精神医学の領域を開拓しました。それ以降活動は継続され、今年で26年目を迎えます。

多文化間精神医学とは

私たちはTranscultural Psychiatryをこのように翻訳しました。国際的にも認められている精神医学のひとつの領域です。精神科医が自分の文化とそれ以外の文化の間で視点を変換すること、また文化という事象が常に生成し変化するものであることを認識することを‘transcultural’と呼びます。精神医学を研究するときにこの視点をもって理論を組み立てること、さらにその方法論を用いて臨床実践で役立てることが多文化間精神医学の研究と実践であると考えています。

 

多文化間精神医学を構成する会員

この学会が設立された当初は、インドシナ難民、急増する外国人労働者、農村部の外国人花嫁など在留外国人への支援が大きなテーマでしたが、次第に海外に駐在する日本人のメンタルヘルス支援も主要なテーマとなりました。これら支援を具体化するには精神科医のみでは実現できません。多職種によって構成されるチーム活動が必要であり、学会リーダーたちの呼びかけによって、医師、心理士、看護師、社会福祉士、教師、関係する公的機関やNPO団体の職員といった人びとが集いました。これら多職種の会員によってこの学会は成り立っています。

 

多文化間精神医学会の活動

a) 学問と研究、啓発活動

移住、海外不適応、異文化ストレスといった臨床的視点から多文化に関連した精神医学的問題を検討し、それらに悩む人たちへの精神的援助や治療的解決を図ろうとするものです。

最近は文化人類学的視点を援用し、文化コンテクストから患者さんを診断し、治療する手法も考えられています。年一回の学術総会を開催するほか、専門アドバイザー研修会に加え、委員会活動としての事例検討会を年数回開催しています。

b) 国内外の支援実践

ひとつめは、外国人支援委員会による日本における外国人のメンタル支援活動です。先に述べたインバウンドと長期滞在者、移住者の精神医学的問題は、その目的や異文化適応の過程によって現れる病態がそれぞれ異なります。これまでに得られた学会の知見を用いて、援助を求める人たちに適切な支援を提供します。

ふたつめは、在留邦人支援委員会による日本人のメンタル支援活動です。海外渡航者の増加とともに欧米に限らない世界の各地で現地の適応に苦しむ人たちへの支援を行っております。委員会が中心となり、国際ネットワークを設立して海外拠点を置き、現地での支援活動を可能としています。

そのほかに、専門アドバイザー相互のネットワークを通じて、日本で暮らす外国人の子どもたち、女性や高齢者、災害被災者といった社会的マイノリティとされる人たちへの支援も行っています。

 

以上学会について簡単ではありますが、その概略をご紹介しました。私たちの活動に関心をもってくださったかたは、ぜひ学術総会やこのホームページを通じて広報される勉強会にご参加ください。

2019年11月

多文化間精神医学会 理事長 桂川 修一

[Back to Top]